受賞

大学院経済学研究科・経済学部 岩井克人 名誉教授 文化功労者を受賞

岩井 克人 名誉教授

 岩井克人教授は、永年にわたり、経済学、特に経済理論の分野の研究、教育に努めてきました。その研究の特徴は、学界の多くの理論家をもってしてもその重要性はわかりつつも、困難さゆえにしり込みしてしまうようなテーマについて、長期間にわたって執拗に研究を続け、多くの学者に祝福されるような業績に結びつけた点にあります。

 その代表と言えるのが、「不均衡動学の理論」で、マクロ経済理論の研究において、経済を安定した長期均衡の状態にあると捉えるのではなく、均衡への調整過程の連鎖の状態にあるという理論の開発に力を入れ、シュムペーター流の経済モデルの開発に貢献しました。この理論は現実との関係という点では、持続的なインフレーションやデフレーション等の現象の解明の基礎となるものです。また、企業を所有関係とする古典的な企業理論の復権を図り、株式会社の中核に二重の所有関係を見出す新たな株式会社論を展開し、企業の理論についても多大な貢献をしています。貨幣の理論についても、サーチ理論的な枠組みを用いて、貨幣を自己循環論法的に捉えるという新たなアプローチを提唱しました。

 岩井教授のこうした深い思考は多くの若手研究者をひきつけ、また、難解な理論を平易にしかも味わいのある文体で解説するという優れた能力で、学界の外にも多くの彼の支持者を集め、こうした範囲まで経済理論を普及させた点においても重要な貢献をしています。

 岩井教授はこれらの業績に対して、日経図書文化賞・特賞、サントリー学芸賞、小林秀雄賞等に加えて、2007年春には紫綬褒章の受章に輝いています。その他の活動としては、Journal of Evolutionary Economics, Structural Change and Economic Dynamics等様々な国際誌の編集にも当たりました。また東京大学経済学部内では、経済学部長として国立大学の独立法人化を進める中で、経済学部内に二つのCOEプロジェクトを獲得することにも成功し、基礎的な経済理論の発展、その普及に尽くしたその功績はまことに顕著です。

(大学院経済学研究科長・経済学部長 植田和男)
(平成28年 秋)