受章
公共政策大学院・経済学研究科 井堀 利宏 名誉教授 令和7年秋 瑞宝中綬章を受章
井堀 利宏 名誉教授
井堀利宏先生の瑞宝中綬章の受章を心よりお喜び申し上げます。
井堀先生のご専門は財政学・公共経済学であり、経済理論を用いて政府の財政政策や税制のあり方を分析する研究を精力的に展開されました。とりわけ、世代間での負担の公平性を扱う「世代重複モデル」を応用した研究では、資本所得税の厚生改善の可能性、インフレが資本蓄積を通じて政府収入に与える影響、消費税の世代間の負担転嫁への影響、土地課税の影響、遺産動機が資本蓄積や経済成長に与える効果をはじめ、きわめて多様な政策課題を明解に分析することで、日本の財政や社会保障を考える上で大きな理論的基盤を築きました。これらの研究をまとめた著書『現代日本財政論』(東洋経済新報社)により日経・経済図書文化賞を受賞されています。
また、一国経済での政府を考える従来の財政学の視座を拡張し、国際社会における財政の役割を明らかにする研究を通して、グローバルな視野からの公共経済学の発展に寄与されました。国際間の所得移転問題と国際公共財の供給、公共財の便益が他地域に波及する場合の経済成長の効果、不確実性が存在する世界における国際公共財の役割、軍事同盟の規模と協力の問題、等について優れた理論分析をされました。さらに、日本の財政赤字と再建問題を政治経済的な視点から分析した成果は、実際の政策形成にも大きな示唆を与え、著書『財政赤字の正しい考え方』(東洋経済新報社)で石橋湛山賞を受賞されています。
こうした研究は、英語での学術誌掲載や海外の研究者との共著を通じて国際的にも高く評価されました。学界においては日本経済学会会長や日本財政学会代表理事を歴任し、多くの後進を育てられました。また、政府税制調査会委員、国税審議会委員、財政制度等審議会委員、郵政行政審議会委員等を務め、税制や財政制度の改革に助言をすることで学問と政策の橋渡しにも貢献されました。

