受章

公共政策大学院・経済学研究科 伊藤 隆敏 名誉教授 令和6年春 瑞宝中綬章を受章

伊藤 隆敏 名誉教授

伊藤隆敏先生の瑞宝中綬章の受章を心よりお喜び申し上げます。

伊藤隆敏先生は、日本の金融・マクロ経済の問題を、国際的に標準的な経済分析の手法を用いて解明し、日本経済に対する正確な理解を、国内のみならず海外の学界に浸透させることに多大な功績を果たされました。

国際金融論の分野では、高頻度金融取引データを用いて、資産価格に関する仮説の検証に取り組まれました。その典型例は、資産価格が投資家が保有している情報を的確に織り込んで形成されるという効率的市場仮説が、こうした精緻なデータを分析すると必ずしも成立していないという実証結果です。伊藤先生は、この分野における研究の蓄積を踏まえ、「アルゴリズム取引と金融市場学会」を2022年に発足させ、我が国における同分野の研究の裾野を広げることに貢献されました。

マクロ経済学の分野では、日本の高い住宅価格が高い家計貯蓄率の原因となるか、日本の選挙制度が経済安定化政策の意思決定にどのような影響を与えるのか、日本の財政赤字はどのような理由によって形成されてきたかなどの、当時、世界で関心をもたれていた日本経済の重要な課題について、先端的な計量経済分析の手法を用いて緻密な分析を行い、多くの成果を挙げられました。これらの成果はMIT出版から書籍("The Japanese Economy")として1992年に出版され、日本経済を語る際のバイブルとして国際的に高い評価を得ました(2020年に経済学研究科の星岳雄教授との共著で全面改訂版を出版)。

伊藤先生の研究の特徴はその国際性であり、全米経済研究所(NBER)主催の東アジア経済に関するセミナーシリーズ"NBER-East Asia Seminar on Economics"を編集した20年間にわたる20冊の書籍がその象徴として挙げられます。これらの書籍では、標準的な経済学の手法により日本やアジアの諸問題が分析されています。書籍作成のプロセスで開催された数多くのコンファランスに、一流の欧米の経済学者とともに新進のアジアの経済学者も参加させることにより、同地域の経済研究についての一大フォーラムを作り上げることに貢献されました。

伊藤先生は、日本経済学会会長、東京経済研究センター代表理事を務め、国際計量経済学会(Econometric Society)のフェローに選出されました。また、大蔵省副財務官(大臣官房参事官)、経済財政諮問会議員、関税・外国為替等審議会会長を務めるなど実際の政策問題の解決にも積極的に関与されました。さらに、公的年金の改革を議論する政府の有識者会議の座長として、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の改革を主導したほか、総合科学技術・イノベーション会議の座長として、世界と伍する研究大学の実現に向けた大学ファンドの資金運用の基本的な考え方のとりまとめにも貢献されました。

 

(令和6年 春)