受章

大学院経済学研究科・経済学部 福田 慎一 教授 春の紫綬褒章受章

福田 慎一 教授

 日本経済は、1990年代初頭の資産価格の暴落を契機に、高成長から長期停滞へと転じ、いまだ低成長のわなから抜け出せていません。世界金融危機後は欧米諸国も似たような状況に陥りました。福田慎一教授は、こうした日本経済と世界経済の構造的な問題の解明に向け、マクロ経済学の理論と実証の双方で多大な貢献をされました。

 第1に、マクロ経済の不安定性に関する理論的な貢献があります。特に、人々のインフレ期待は、短期的な需要増加を促す一方、貨幣の資産価値を下落させ予算制約を厳しくさせる、というトレードオフがあり、それがマクロ経済の動きを不安定にさせることを解明されました。第2は、日本経済で金融や景気変動が果たす役割に注目し、構造問題を実証的に明らかにした貢献です。特に、低成長の原因として、非効率な(ゾンビ)企業が回復を急ぐことで、人件費削減を進めながらも生産性上昇が伴わなかったことを示されました。第3は、国際金融市場が不安定化するメカニズムを理論的・実証的に明らかにされた貢献です。特に、リスクヘッジをした上で内外金利差を同一にするように為替水準が(通常の理論通り)平時には決まっているものの、金融危機時にはそうならないこととその背景を示されました。

 これらの優れた業績は、内外の研究者により高く評価されただけでなく、政策担当者や実務家からも大きな注目を浴びました。1995年日経・経済図書文化賞、2009年日本経済学会・石川賞、2013年全国銀行学術研究振興財団賞など数々の受賞をされています。

 福田教授は、30年にわたり経済学の教育に邁進されてきました。また、日本経済に関する主要な国際学術雑誌であるJournal of the Japanese and International EconomiesとJapan and the World Economyのチーフエディターを務められているほか、東京経済研究センター代表理事、内閣府景気動向指数研究会委員、金融審議会委員などの要職を歴任されるなど、我が国の経済学界の興隆、そして経済学の成果の社会への還元にご尽力されてきました。

 この度の福田教授の受章を心よりお祝い申し上げますとともに、福田教授の今後益々のご活躍を祈念いたします。

 

(大学院経済学研究科教授 植田健一)
(令和3年 春)