受章

大学院経済学研究科・経済学部 吉川 洋 教授 秋の紫綬褒章を受章

吉川 洋 教授

 吉川洋教授は、永年にわたり、経済学、特にマクロ経済学の分野の研究、教育に努めてきました。社会科学としてのマクロ経済学には、学派という点からは、市場メカニズムの役割を重視する「新古典派経済学」と市場の失敗と政府の役割を重視する「ケインズ経済学」 という2つの世界的潮流が、また、研究テーマという点からは、短期のマクロ現象を取り扱う景気循環理論と、中長期的なマクロ現象を取り扱う経済成長理論があります。1980年前後以降は、米国を中心としたマクロ経済学の研究の流れは、ケインズ経済学から離れ、新古典派経済学へ大きく傾きましたが、2007年以降の金融経済危機の中で、学界の流れはまた新古典派経済学から大きく離れつつあります。

 吉川教授の研究の大きな特徴は、以上のような学界の流行の浮き沈みに惑わされることなく、一貫してケインズ経済学の立場から研究を続け、理論だけでなく、その日本経済への応用にも多大な成果を残した点にあります。設備投資や為替レートの動き、またその日本経済への応用に関する業績は、多くの研究者によって引用されています。また、最近では企業や家計のミクロ的な行動の集計の問題に経済物理学的な手法を用いる研究も進めています。

 吉川教授はこれらの業績に対して、日経経済図書文化賞、サントリー学芸賞、エコノミスト賞、読売・吉野作造賞等多数の受賞に輝いていますし、日本経済学会長も務めています。また、財政制度審議会、社会保障国民会議、税制調査会委員等、数多くの政府の審議会等での活躍に加えて、合計7年近くにわたって、内閣府経済財政諮問会議議員を務め、経済学の現実の政策決定への応用の面で大きく貢献しました。さらに現在は東京大学大学院経済学研究科長を務めています。経済学の研究、教育、そしてその社会への普及の各面での功績はまことに顕著です。

(大学院経済学研究科教授 植田和男)
(平成22年 秋)